曲は普通なのに動画が何やら思わせぶりな先輩シリーズ707の話。
00:00 冒頭
【主人公らしい現場1の一言】
「山崎、ハロウィンカラーのカップリング好きだけはブレないよね」
#思わせぶりな動画に反した物語 #先輩シリーズ707
最後の先輩シリーズの所有者であり、マスターだったアヤメには、
未だに後悔していることがあった。
(どうせ寿命を迎えるなら、先輩素体に好きな事させてあげればよかったな…)
普段は女子高生モードの707は、故障を恐れるアヤメや司書局のチームによって
専用のルームで過ごしている事が多かった。
「アヤメえ、外出たい~。買い物行きたい~」
「次のメンテの時にしましょう。ネットショッピングなら付き合いますんで」
一緒にベッドに寝転がり、タブレットを操作して
先輩の欲しいものを検索するアヤメだった。
また、裸眼モードの先輩は、強い代わりに相当エネルギーを使うので、
機動力を下げるために、戦闘服をパンツスーツから、スカートに変更した。
これは裸眼モードの707に不評で、オフィスで散々「戦いづらいやん」と
愚痴を聞かされるアヤメだった。
だから、自分でコードを書き換え、
パンツスーツ姿でヘルプに来た707を見た時、
とてつもなく厭な予感がした。
通常、
マスターを持つアンドロイドやサイボーグといった生体兵器は、
自由意志の一部を封印されている。
それなのに、自分で命令を無視してきた707は、
その時既にバグが発生していたという事になる。
案の定、任務中に、急に動きを止めた707だった。
(食事なんてできないのに、菓子パンを食べたがる先輩だったな…)
だから、最後の707からのメッセージは、いつも通りの「パンが食べたい」という
遺言だったのだろうと思っていた。しかし、教えてもらったメイドカレーパン屋を
訪れると、そこには先輩シリーズの人格モデルとなった、
高校時代の先輩が、メイド服を着て
働いているのだった。
「先輩…、冗談にもほどがありますよ…」
今は活動停止した707に、倉庫で話しかけるアヤメだった。
スマホの着信が鳴って、高校時代の先輩からメッセージが届いた。
『ねえあやめ、餡蜜食べにいかん?』
アヤメは、チラっと707を見つめてから、センパイへの返信を打ち込んだ。
(完)
#実際のところ
アヤメが先輩素体のマスターになる事を選んだ理由は、
初恋の人に似ていたからだった。
その人が、先輩素体の人格モデルだったと知った時の、
あの絶妙に後味が悪い様な、
なおかつ予想通りだったような、
よく分からない感情は、
もう既に夕暮れの三丁目のビル街の風に吹き飛ばされてしまっていた。
実際、先輩素体に告白したことがあるし、先輩707の了承さえ得られれば、
彼女と擬似的な恋愛関係になってもいいと思っていたくらいには
先輩素体に惹かれていたアヤメだった。
しかし、先輩シリーズ707は、
既に寿命を迎えつつあるという事が
判明してから
アヤメの方向性は、先輩素体の温存に向かい
初めて出会った時に感じた感情の事も、
思い出す暇がないほど忙しかった。
告白した際に、
先輩素体にはフラれていたし
今となってはそれで良かったのかもしれないとアヤメは考えている。
先輩素体が最後に教えてくれたという事は、
自分の人格モデルのことを認知していたからに他ならない。
もしかすると、アヤメがいつか
本物の先輩と出会うことを考慮して
席を譲ってくれたのではないかとすら
思えてくる。
アヤメが経緯を説明した時の、
高校時代の先輩は、
ビル風に吹かれながらちょっとだけ眉を顰めていた。
上目遣いでアヤメを見上げて、何も言おうとしない。
けれども口元は笑っていて、どこか皮肉めいた色っぽい表情だった。
「だからもう少し…好きなことをさせてあげればと思ったんです」
「ふうん」
高校時代の先輩は、笑いながら首を傾げた。
「まあええんちゃうのん? だってAIなんて人間ちゃうやろ?
マスターの命令なら、基本なんでも聞くように出来てるわけで」
「でも、文句とかはよく言われてましたよ」
「それもプログラムやんか」
それが見抜けないくらい精巧に作られとったAIって事やな。
言われてアヤメは、ハッとした。
そう捉えたことがなかったのに気づいた。
「私、先輩素体のこと、人みたいに捉えている事が多かったです……」
「うーんまあさぁ、わからんよ?
人とAIの差なんて、ほんとはあるんかな?
うちらだって、感情とか、ほんとって言えるんかな。
そう思い込んでるだけやったりしてw」
アヤメは先輩を見直した。
本質的に鋭いことを言ってくる人なんだな、と理解した。
勉強が出来るできないということよりも、
ズバっと本質を見抜いてくる能力に長けている。
きっと右脳派なんだろうなと納得するアヤメだった。
そんな先輩は、人格モデルの報酬の件もあってお金には困っていないようで、
実は高校の資格が取れないこともそんなに気にしていないようだった。
「もううち、テスト以外は学校いっとらんしな。
貰ったバイト代は額が大きいから、
お姉ちゃんとかおとんに投資するように言われて、減ってないんよ」
せめて5億くらい取れば良かったのにとアヤメがアドバイスすると、先輩は笑った。
「そんなお金あっても、幸せになれんよwめんどくさいのが増えるだけやろ」
それは確かに……。
実家がそれなりの資産家であるアヤメには、理解できた。
「投資で利子とかつくやん。
したら募金とかもしてるん。
せやけど余るから、うち、十分やねん」
先輩の住んでいる区画は、
真ん中という言葉がちょうど良いレベルの家で、駅から程よく離れ、
高層でもないし、物凄く広いわけでもなかった。
整理整頓された部屋のところどころに、
ポップな色合いの家具が配置されていて、それも高価なものではない。
ただ、必要なものにはお金をかけていて、
寝具や入浴剤、キッチンと言ったものは凝っていた。
なんというか、長居するつもりが無くても肩の力が抜けてしまう部屋だった。
先輩の荷物持ちを手伝って玄関で引き返そうと思っていたアヤメだったが、
お茶くらいと言われて、
夕ご飯をご馳走になって、
夜には一緒にテレビを見ながら
チューハイの缶を開けていた。
ほろ酔いで
「シャワーかりまーす」
などと声をかけたら、
「脱衣場のチェストの中に、パーカーあるわ」
と、先輩から当たり前のように声掛けがあった。
気がついたら朝で、
先輩の家の広いベッドの片隅で目を覚ました。
(あ、今日仕事休みだ……)
先輩は堂々とベッドの真ん中で眠っていて、
それを寝ぼけ眼でみているアヤメだった。
(なんだろこの楽さ加減……)
眺めていても先輩は起きなかった。
じゃあまいっか、どうせバレないし。
と、寝ている先輩に軽くキスをして、洗面所に向かうアヤメだった。
昨日酔っていた先輩が投げ散らかしたバスタオルや服を拾い集めて、
洗濯機に放り込み、そのまま洗濯した。
歯を磨いていたら、漸く先輩が起きてきて、
あ、そのパーカー似合うわ。あげるわとか寝ぼけながら話しかけてきた。
2人並んで歯磨きしていると
「はんでふちらへつな部屋にふんでんやろな?」
と、先輩が言ってきた。
「ほーですね」
などと言いながら
先に口を濯ぐアヤメだった。
なぜかお昼ご飯の食材を2人で買いに行き、
夕方にはアヤメが先輩の家に引っ越すことで決まっていた。
【完】
【707の影】歌詞
[Verse]
鋼の身体に宿る炎
光より速い鼓動が叫ぶ
無口な瞳に秘めた悲劇
そんな君を愛してるよ
[Chorus]
ななまるなな 君の背中
追いかけて消える影のように
触れたいけど 壊したくない
切なさが僕を駆け抜ける
[Verse 2]
未来を背負い戦う君
その痛みさえ絆だと思った
冷たく鋭いその刃も
君を守る愛の証だ
#順序がおかしい人たち
センパイの家に引っ越した日、ロフトに置いたマットで寝るか悩んだ。
元の家の家具に特に愛着はなかったので出る時に処分したし
持っていったのは、服一式と必須の日常品くらいだった。
センパイの住んでいる部屋で感心したことは、収納スペースが広いということだった。
冷蔵庫もアヤメが使っていたものより大きくスペックが良かった。
「冷蔵庫は大きい方がええんよ~」
料理が好きな先輩らしいなと思った。高校の時も、料理部のエースと呼ばれていた。
スツールに腰かけて夕ご飯を取っている時に
寝る場所を確認しようと思ったが、なんとなく聞けずに味噌汁を啜っていた。
(なんだかすごく自然な流れで引っ越してきちゃったけど…)
ふと横を見ると、センパイも味噌汁を啜っていた。
(何故か別々に寝るのが不自然な感じがするんだよな…。付き合ってないのに)
そんなことを考えていたら、センパイと目が合った。
「アヤメさあ、ロフトで寝るう?」
センパイも何故か、アヤメが寝る場所を気にしているようだった。
「いや…、どうしようかなって…。」
アヤメも困惑しながら、返した。
「どうしよっか…」
「どうしましょう」
少し黙ってから、2人で、味噌汁を啜った。
お新香を摘まもうとしたら、先輩の箸とアヤメの箸がぶつかったので、
「あ、すいません」などと謝るアヤメだった。
お新香をしゃくしゃく咀嚼してから先輩が言った。
「ほんでうちら、なんで一緒に住むことになったんやっけ?」
「なんか、一緒に住んでないほうがおかしい気がして…」
「うちもなんよな…」
2人で首を傾げた。
「ほいでうちらってさ、なんなんやろ?」
「高校時代の…、先輩と後輩じゃないですかね?」
先に立てて於いてもらった番茶を淹れながらアヤメが答えた。
「せやんな。あんな?」
「はい」
「住んでしまってから言うのもアレやけど、うち、高校の時、アヤメのこと好きやってんよ」
思わず咽た。冷めたお茶でよかったとアヤメは思った。
「いや、昔の話やけどな?もし厭やったら、出てってもいいよお?」
ケロッとしながら、そんなことを言う先輩だった。
「い」
「うん?」
「今は…?」
「え…?」
暫く、無言で見つめ合う二人だった。
せやなあ、といいながら、先輩も冷めた鉄瓶を手に取った。
お茶を淹れ終わると、顔を上げて、アヤメを見た。
「どう思う?」
「どう思うって…」
アヤメの中で何かのレンチンが完了した。
「どう思うってそんなの知りませんよ!!」
それは当然と言えば当然な感想だった。
温めのお茶が零れないように、敢えて端に茶碗を寄せてから、アヤメは言った。
「先輩はどう思ってるか知りませんけど!!私はまだ先輩の事好きです!!
なんで一緒にスムーズに住むことになったのか、なんで寝る場所で悩んでるのか!?
理由とか分かりませんけど!私は、ずっと先輩の事好きでした!!
ご迷惑でしたら、リサイクルショップに出した家具を回収してからこの家出ますけど!
その間も、ロフトで1人寝できる自信がありませんし!先輩の服とか洗濯しますし!
ここから仕事にも行きます!!」
肩で息を切る勢いで、後輩は言い放った。
これが魔法呪文の詠唱だったら、半径3mは取り返しがつかなかったかも知れない。
後輩の熱意溢れる言葉に、先輩は頷いた。
「じゃあお風呂入って一緒に寝よ!!」
「分かりました先輩!!どっちが先にシャワー浴びますか!?」
「めんどくさいから一緒に入ればいいやん!!」
「パーカー返しませんから!」
「使ってええゆうとるやろ!?」
「さっさと茶碗洗ってください先輩!」
「うちご飯作ったんやから、アヤメが洗ってよ!!」
いつの間にか家庭にありがちな口論に発展していた2人だった。
この物語を書いている山崎は思った。
お前ら結婚しちゃえよ。
(完)

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